タイトル

 ■ごぞんじ和風スーパーマン

小野耕世 (評論家)  

 ロサンジェルスから東京に向う飛行機のなかで、手塚治虫さんと、スーパーマンのはなしをした。
 あのね、アメリカにはね、いろいろなスーパーマンがいて、スーパーマンみたいに、やせがまんして独身をまもっているやつばかりじゃないんですよ、と私。たとえば、スーパーヒーローのチームがあって、そのなかのふたりが恋人同士で、いいなずけなんだけど、そのうち結婚しちゃう。それで子どもまで生まれて、そうなると、奥さんのほうは、子どもの世話でたいへんだから、一時的にチームから外れて、育児にかかりきり。そうすると、別の女性が助っ人として、チームにはいってくる……。それで、夫婦なかがおかしくなって、奥さんが、子どもを連れて家出したり……。
 うん、そいつはおもしろいなあ。と手塚さん。子連れのスーパーマンていうのはいいよ。家に帰ると奥さんにしかられたりしてね、赤ん坊のおむつをとりかえたりしてる。腹が出てきて、コスチュームのサイズが合わなくなったりしてね。そいつはいいな。そういうマンガ、描いてみたいねえ。
 どうも、スーパーマンというと、単純明快すぎて、つきあいきれないという先入観があるものだから、名まえは知っていても、照れくさくてまともにこのテーマに挑戦するマンガ家は少ないけれど、でも、だれだって、強くなりたいとか、空をとびたいというあこがれはあるだろう。
 藤子不二雄さんは、早くから、このスーパーマン・テーマを、日本式に消化し、日本の空をとぶにふさわしい、なごやかなスーパーマンを、これまでにもマンガのなかに登場させてきている。独自の和風スーパーマン世界がすでに完成されているのが楽しい。パーマンだって、アメリカのスーパーマンから、あのまぶしさと派手やかさを取り去ってみせながら、しかもなお、少年のあこがれを、すなおに描いていた。
 しかし、考えてみると、スーパーマンには、いろいろな夢がこめられているなあ。飛行願望、変身願望……。ほんとうにそんなことはできやしないが、しかし、ほんもののスーパーマンのほうにしても、休みの日には、変装して、夜の街をさまよっているのかもしれない。
 恋人の新聞記者、ロイス・レーンとだって、実はすでに同棲しているのかもしれないのだ。あなた今夜はダメよ。ピルを切らしてるの……なんてね。
 ロサンジェルスで「スーパーマン」の映画を見ての帰りの飛行機のなかで、そんなことを考えた……。

1979年 双葉社アクションコミックス「中年スーパーマン左江内氏」より

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