タイトル

 ■藤子さんは凸凹コンビです

手塚治虫 (漫画家)   

 凸凹コンビというのは、もともとハリウッドの喜劇映画でバッド・アボットとルウ・コステロという二人組のコメディ・リリーフの呼び名です(すでに、ヤングはこの名を知らない世代になりました)。
 それと、有名なローレル・ハーディの二人組とをふたつあわせたようなキャラクターを、僕は初期の作品によく出して、凸凹コンビと名づけました。
 藤子さん達二人がわざわざ宝塚までぼくに会いに来て下さったとき、一目見て、ああこれは凸凹だと思ったのです。
 それまでにも二人組の漫画家の卵はいました。現在パッケージデザイナーで活躍している山口真民、秦民民兄弟、それから、漫画少年の投稿などをしていた村上卓児、英児氏兄弟(兄上の方はやがてSF作家眉村卓になりました)などです。しかしいずれの組も二人は似たもの同士で、藤子さんのように、対照の妙というか、極端にイメージの異なったコンビにはなりませんでした。面長でおっとりとした若旦那タイプの藤本氏と、バサッと髪を分けた眉のふとい精悍な安孫子氏(しかも実家がお寺さんで!)と並んだところは、あっ!これはコンビのキャラクターになる!と感じました(まことに失礼きわまる字句を長々と並べまして、藤子さん、すみません、すみません)。事実、それから度々お二人の姿を漫画に使わせていただいているのです。最近では「七色いんこ」という作品の最初に……(すみません、すみません、ご免なさい)。
 お二人は、拙宅を探し出すのに大へん苦労されたようです。わざわざ富山からおいでになったのに到着はもう夕方で、夜には帰るとのことでした。あいにく、仕事の〆切が過ぎていたか何かで、坐っているお二人をそっちのけにペンを動かしていたんじゃないかと思います。で、藤子さんからはベン・ハーの描きおろし合作を何枚か見せてもらい、ぼくは「来るべき世界」か何かをお見せしたような記憶ですが、そこらはたいへんあいまいです。
 「ベン・ハー」の1ページめの豪華な絵!デミル映画そこのけの緻密な背景、そして、絵の具を使った幼いキリストの姿。もちろん昭和二十四、五年ごろのことですから映画の「ベン・ハー(チャールトン・ヘストン主演の)」はまだありません。
 ぼくはこのコンビはことによると、すぐにも、驚くべき大作をどこからか出版するのではないかとひそかに期待し、そして恐れました。ぼくが顔色なしになるような大傑作じゃないだろうかと。
 そして「最後の世界大戦」が出ました。なんとも残念なことに表紙は大城のぼる氏の絵でしたが、中身は緻密さ、豪華さ、克明さの点で、はるかに「ベン・ハー」を抜いていました。内容も三百ページはほしいくらいの大河ロマンでした。
 それよりもぼくが恐縮してしまったのは、そのときの藤子氏のペンネームが“足塚不二雄”だったことです。お二人はしばらくの間この名を使っておられたようですが、“藤子”に変えてよかったと思います。
 さて、本文の解説にはいるわけですが、正直な話、藤子氏の作品に解説はいりません。買った、読んだ、面白かった、のシーざーもどきの感嘆ですべてということです。漫画というのは、それで一番よいのです。近頃流行の勿体振った漫画評論なんて不要なのです。戦前の漫画を御覧なさい。いったい誰がくどくどと正チャンやのらくろを評したでしょうか。
 「オバQ」は、藤子氏の処女連載作品「天使の玉ちゃん」の系列にはいるもので、架空の妖精的主人公のアンバランスな人間生活がモチーフになっています。なによりも、「おばけ」という概念を、これほどまでにキュートに、子どもの世界にひきずりおろして描いた作品は以前にないでしょう。アメリカには幽霊の子どもを主人公にしたキャスパーという例がありますが、これよりもずっととぼけていて性格づけが見事です。
 キャラクターの描きやすさの点でも、まず、オバQ君にかなうものはありますまい。戦前の「のらくろ」は、子どもたちに模写される代表選手でしたが、そういえば、オバQ君のマスクは、黒くぬればのらくろ君になってしまうところに、この両横綱の共通点があるようにおもえます。

1982年 「藤子不二雄自選集8 オバケのQ太郎1」より

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