タイトル1


 

★ 作者の言葉


 異星人とはいえ、このまんがに登場されるのは、まぎれもない王室御一家であらせられます。王族の私生活がこのように赤裸々に公開されたことは史上に類をみないことではありますまいか、最敬礼!!

 国をつくるということは大事業なのです。地球の人口はパンク寸前!地価はうなぎのぼり!ウメ星国再建の見通しは暗いのです。しかしデンカはくじけないのです。きょうもあしたもガンバルのです!!

 この巻で登場するロボットのゴンスケは、実は「21エモン」という別の作品で生まれたキャラクターです。「ウメ星…」の登場人物が皆好人物すぎるので、アクセントとしてゲスト出演させました。

虫プロ商事 「ウメ星デンカ」第1〜3巻 カバー見返しより 1971年

 

★ ウメ星デンカキャラクターづくりの秘密


 「ウメ星デンカ」ギャグは、二重に仕組んだ設定の中に、詰め込まれています。具体的には、地球とかけ離れた宇宙人が、日常に入ってきたらどうなるか──ということと、その宇宙人が日常の規範と相いれない思想を持っていたらどうなるか──という構造です。

 ある夜のこと、中村太郎は円盤の墜落事故を目撃し、翌日探しに出かけ、小さなツボを発見して持ち帰ります。

 ところが、ツボからは地球人そっくりの宇宙人が三人現れ、小さな容器からは考え及ばないほどの家具を取り出して、太郎の部屋を占拠してしまう。

 あわれ、部屋を追われた中村太郎。

 不法占拠の事実に驚いた中村家の主人は、法の執行を110番に求めますが、相手が宇宙人というのでは、おまわりさんは笑って聞き流すだけ。かくなる上は、自分の城は自分で守るとばかり、鍋のヘルメットに六尺棒、野球のバットを腰間におとし、ドテラの尻をからげて、タスキを結んだお父さん、二階の階段を昇って太郎の部屋に飛び込む(このへん、日常と非日常の接触)。

 しかし、宇宙人たちは物干し台に出て、自分たちの母星・ウメ星の思い出を語り合っていたのです。お父さんは気の毒に思い、当分の間同居を許可します(宇宙人がウメ星の国王と妃、王子であったことが分かる)。この日から異星の二家族が、同じ家に住み、珍妙なおつき合いが始まるのです。

 ウメ星王国の三人には、どうも理解に苦しむことがあります。それは、中村家の人間をはじめとする地球人が、勲章の偉大な価値に無感覚なことです。ウメ星の人間なら発狂するほど喜ぶこの勲章を、地球人は、いっこうにありがたがらないのです。しかし、それでも王様は、事ある度に勲章を授けたがります。

 これと全く逆反応を示す人が、ウメ星国王を慕って地球にやってきた、侍従・ベニショーガです。臣従思想に凝り固まった時代錯誤も、笑いにつながっていくのです。

 例えば、中村家の二階で居候生活を強いられている国王を見るにつけ、ベニショーガは、かつて住んでいた大きな城を思わずにいられません。せめて独立した建物を造ろうと、手頃な空き地の発見に精を出します。有力な候補地を決め、ウメ星の札束攻勢をかけたり、泣き落とし作戦などを試みるのですが、ガンとして譲ろうともせず、逆に“逮捕するぞ”と、おどされて退散の憂き目にあわされます。その候補地こそ、皇居前広場だったというわけです。

 「ウメ星デンカ」に限らず、生活ギャグは素材やテーマの選択を、身近にしておくことが大切です。ウメ星人のツボは宇宙移動ロケットであり、欲しいものが何でも取り出せる、夢のような小道具です。このアイディアは、ドラえもんの四次元ポケットへとつながっていきました。

 ウメぼし、ラッキョウ、ベニショウガ、奈良漬けなどの漬け物が、ネーミングのヒントになったりします。ギャグはホントに油断もスキもないものです。

小学館 「藤子まんがヒーロー全員集合」より 1984年

 

★ 藤子・F・不二雄先生からみなさんへ


 困っている人は助けてあげなくてはいけません。ウメ星デンカ一家は、宇宙一困っている人たちです。なにしろ住んでいた星も宮殿も突然爆発して消えちゃって、やっとの思いで地球にたどりついたのですから。でも勝手に住みつかれた中村さん一家は大めいわく。さてこのさわぎ、どうおさまるのでしょう。

1994年公開 「映画ウメ星デンカ 宇宙の果てからパンパロパン!」パンフレットより

 

★番外編:ウメボシ、梅干し、ウメ星


 篠田ひでお(漫画家・大垣女子短期大学教授)
 読者の皆さん、読み終わった感想はいかがですか。

 善人ばかりの登場人物、悪人が出ていても本当の悪人じゃなくもどことなく憎めない。話の内容も明るく人間性豊かで、ユーモラスで、ちょっとしたペーソスもあり、安心して子どもたちに与えられる作品……と、ここまで書いてくると、なんだ、ただ良心的なだけの、毒にも薬にもならない漫画かと思われるでしょうが、じつはそうではないことは、すでに読んでこられた読者の皆さんは、お気づきのことと思います。

 そうです、子どもどころかおとなが読んでも読みごたえのある作品なのです。

 それにしても『ウメ星デンカ』とは、不思議なタイトルですね。そういえば小さい頃、簡単なクイズというか、なぞなぞがありました。「人間にいちばん近い星は、なーんだ」、「物干し!」「へっへっへっ、近いけど、ざーんねんでした。それはウメボシです」というようなものでしたが、藤本さん(藤子・F・不二雄さん)も、こんなクイズを思い出しながら、忙しい仕事の合い間、ふと窓の外の夜空に眼をやったとき、ウメボシがウメ星となって、頭に飛び込んだのでしょうか。

 『ウメ星デンカ』を読んで気がつくのは、後に出て超人気ものとなる『ドラえもん』の四次元ポケットと、そこから出てくる数々のグッズの萌芽が読みとれることです。

 もちろん、四次元ポケットが、ウメ星デンカ一家が乗ってきたカメ。7階建てのビルだって、何でも吸い込む、そして何でも吐き出す。その道具に、ドラえもんの出す道具のようなおもしろいネーミングはないけれど、便利さは同じなんですね。なーんてそんな事ができるの、といっても理屈はありませんが、納得してしまう。その道具類のおもしろさ、タイミングのよい登場の仕方、使い勝手のよさで理屈がぶっ飛んでしまうのがいいですね。「漫画」は理屈じゃないよって、あらためて教えてもらってるみたいです。

 とはいうものの『ウメ星デンカ』では、そんなに道具は出てきませんね。

 『ドラえもん』では、いざとなると道具が出てきて、その道具がどんな物なのか、また、どう使われるのか、ということを読者が楽しみ、期待する面があります。

 ところが『ウメ星デンカ』では、先にも書きましたように、道具がそんなに出てきません。そのぶん、なんというか、話が非常に人間くさく、ウメ星の王家の人たちなのに庶民的なんですね。それに加えて『21エモン』に出ていたロボットのゴンスケが『ウメ星デンカ』にも登場、いい味を出しています。ロボットのくせにといっちゃ失礼だけど、人間以上に人間くさく、我欲の強い、自己主張の強い演技で、時には主人公たちを食ってしまうという、藤子・F・不二雄まんがの世界では独特のキャラクターで、アクの強い割にはペーソスも感じさせる不思議な存在です。

 こういう味つけが、我々おとなが読んでもニヤリとしたり、なるほどと相づちを打ったりできるところなんでしょうね。

 ところで、話は違いますが、近頃、漫画はいろいろと裾野を広げ、あらゆる分野に広がり、我が世の春を謳歌している風がありますが、少し気がかりなのは、そういうなかで、漫画に忘れられた世代があるのではないかと思われることです。

 それは若年層と老年層です。特に小学生の低学年向けの漫画がないように感じられます。いや、そんなことはない、ちゃんと低学年向けの学習誌、娯楽誌にも漫画が載っているよ、といわれるでしょう。載っているということだけであれば、そのとおりです。

 でも今、あらためてこの『ウメ星デンカ』を読んで考えてみたら、親子で楽しめる、このような漫画がはたして今あるだろうかと思ったのです。

 私事ですが、現在私は大垣女子短期大学で漫画を教えていますが、この中から、将来、忘れられた読者をターゲットにし、だれからも愛される漫画家になるという大きなチャンスをつかむ人が出てほしいと思っています。

 さて、最後に一言、梅が中国から伝わって長い歴史を重ね、今日では、もとから日本にあった樹のように思われています。その梅からできた梅干しが、これまた長い歴史を持ち、私たちの食生活に根をおろしているのと同様『ウメ星デンカ』も、我々の生活に根をおろし、読みつがれる作品だと思います。

小学館 コロコロ文庫『ウメ星デンカ』 解説より 1998年
 

  


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