The Plate of Minotauros

 

 

 

 

 宇宙の辺境で遭難した男がたどり着いた星、そこにはギリシア時代に似た文明があった。彼は自分を助けた美しい少女ミノアに心惹かれるようになり、助けが来るまでの日々を楽しく過ごしていた。
 しかし、ある日この星の支配者は地球の牛にそっくりな「ズン類」であること、ミノア達「ウス」は彼らの家畜であることを知ってしまう。さらにミノアは毎年開かれる「ミノタウロスの皿」の大祭の食料として選ばれているという…。
 「ミノタウロスの皿」の栄誉に誇りを持つミノア、ズン類との考え方の違いに苦しみながらも彼は何とかしてミノアを「助け」ようとするが…。

発 表:1969(昭和44)年9月
初出誌:ビッグコミック '69年10月10日号
頁 数22ページ(初出時)、36ページ(修正後)

「ミノタウロスの皿」    小学館 ゴールデンコミックス第1巻
「幸運児」         小学館叢書 異色短編集1
「ミノタウロスの皿」    小学館文庫 藤子・F・不二雄[異色短編集]1
「藤子・F・不二雄の世界」 小学館 ワンダーライフスペシャル
「藤子・F・不二雄集」   小学館 ビッグ作家 究極の短編集
「カンビュセスの籤」    中央公論社 愛蔵版 SF全短篇 第1巻
「一千年後の再会」     中央公論社 藤子不二雄ランド 異色SF短篇3
「ミノタウロスの皿」    小学館ゴールデンコミックス第1巻

 記念すべき異色短編の第1作。世はまさに劇画ブーム、青年向け漫画が台頭してくる中で、子供向けの絵はそのままで、大人向けの作品、というこんな意味でも異色である作品が誕生した。
 作品の原型は民話だと作者は語っているが、もともとのヒントは、人間をいけにえとして捧げられていた、牛の怪物ミノタウロスの伝説からであろう。
 藤子・F・不二雄の作品には、「価値観の相違」、「偶然と必然」、「力を持った者の悲劇」といったテーマがよくみられるが、この作品は「価値観の相違」が大きなテーマと言って良いだろう。徹底的に主観を削り取った後に残った客観的な事実、人間という存在がいかに矛盾に満ちたものであるかを説く手法は「気楽に殺ろうよ」などにも見られるが、この作品ですでに完成させてしまったと言えるだろう。間違いなく傑作であり、異色短編の代表作である。

【ミノタウロス】
 ギリシア神話で、半人半牛の怪物。ミノスの王妃が牡牛と通じて生んだ子。後にテセウスがアリアドネの助けで迷宮ラビュリントスで退治した。

【ミノア】
 『ミノア文明』クレタの伝説的な王ミノスの名にちなんでいう。紀元前20〜15世紀を最盛期としてクレタ島に栄えた文明で、エーゲ文明の中心。20世紀初頭、エヴァンズによるクノッソス宮殿の発掘でその存在が知られた。ギリシア本土にも影響を及ぼし、ミュケナイ文明興隆の一因となった。

【イノックス星】
 ミノア文明の遺跡。20世紀初頭にエヴァンズが発掘。迷宮ラビュリントスや壁画で有名。

【カストル条約】
 『カストル』双子座の首星。白色で光度1.6等の連星。

 昭和四十四年でした。一時期ブームを呼んだ「オバケのQ太郎」がブラウン管を去り、雑誌連載も終了し、続く「パーマン」も意外に短命。「21エモン」「ウメ星デンカ」、これが作者としては大いに肩入れして書いたわりには読者の反応がイマイチで……。不思議なものです。時の流れに乗ったときには何をやってもうまくいくし、一度外れるとどんなに力投してもずっこけるという。世は挙げて劇画ブーム。コミック読者の主流が、子どもを離れて大学生、サラリーマンにまで広がり、こうなると昔ながらの生活ギャグマンガなどかったるくて、というわけです。祭りの後の淋しさというか、はっきり言って落ちこんでいた時期でありました。

 当時の『ビッグコミック』編集長小西さんが、ひょっこり顔を見せて一本書いてみろというのです。「冗談じゃない。書けるわけがない。ぼくの絵を知ってるでしょ。デビュー以来子どもマンガ一筋。骨の髄までお子さまランチなんだから」いや、それでいいから書いてみろという。とにかく強引な人なのです。話してるうちにだんだんやれそうな気になってきました。「たとえば、こんな話なんかどうです」と小西さんの話してくれたのが民話です。「猿後家」(注)でしたか。はっきり覚えていないけど、民話特有の残酷な小話でした。「面白そうですね。それ、なんとかやってみましょう」と書いたのが「ミノタウロスの皿」でした。元の話とは全く何のつながりもないけれど、触発されて書いたことは事実です。

 これが意外に、実に実に意外に好評でした。自分にもこんなものが書けるのかという、新しいオモチャを手に入れたような喜びがありました。(後略)

1987年 中央公論社刊 愛蔵版 藤子・F・不二雄 SF全短篇
第1巻「カンビュセスの籤」
まえがきより

(注)「猿後家」
 先生自身「はっきり覚えていない」とおっしゃっているが、この元になった民話が「猿後家」というのは恐らく先生の記憶違いであろう。「猿後家」というのは落後の話の1つで、「ミノタウロスの皿」と重なる点は全くない。

 初出時が22ページ、単行本収録時が36ページと、大幅に修正されていることが分かる。初出から実に8年後に修正がされているため、藤本先生の絵に慣れている方ならどの部分が修正されているかおわかりになると思うが、全体を見ていこう。

 まず、初出時には表紙がない。また単行本での2ページ目も書き下ろしである。初出時は単行本での3ページ目が1ページ目となる。ちなみにタイトルは単行本での4ページと5ページにまたがる一番上のコマ、ミノアの横顔の部分にあった。

 3ページ目の宇宙船のコマ、右下部分を見てほしい。一部星が描かれていない部分があるが、初出時にはここに「マノタイ嵐に吹かれた。」というセリフがあったのだが、なぜかカットされている。

 他にもところどころ描き足されている部分があるが、最も印象的なのは、初出時にはミノアの最後の夜、25〜27ページがなかったことであろう。ミノアの心の奥底にあるという「こわい」という思い、しかし大祭の名誉を失う方がもっと「こわい」という彼女の姿がなくそのままラストに向かう初出はやはり修正後の作品に慣れていると違和感を覚えずにはいられない。

 また、主人公の男がミノアを救うべく走り回った先のズン類たちの職業名がカットされている。21ページ目の風呂に入っていた彼は「食料府長」、23ページ目のウスの子どもを抱いた老女(?)は「動物愛護協会会長」、24ページ目の「食べてやることによって魂を救うのです」と言っているズン物は「ミノタウロス寺院大僧侶」である。

 ラスト32〜36ページのうち、36ページ目のロケットのコマ以外は全て描き直されている。ここで印象的なのは、ミノアが部屋に入る瞬間、刃物を持ったズン物を見て複雑な横顔を見せた後、かすかに微笑みうつむき、両手を挙げるシーン、これは初出時には全くなかった。

 まだまだ細かい描き足しはあるが初出時と比較をすればするほど、修正後の完成度の高さが感じられる。

 


 

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