丸の内商事に勤めるごく普通のサラリーマン、海野五郎は来週に結婚を控えた婚約者、森山みどりとデートの待ち合わせに公園にやってきたのだが、彼の前に現れた二人組のヤクザにさらわれてしまう。
 不気味な館に連れ込まれ、自由を奪われた五郎の前に現れたのは、暴力団の組長と科学者らしい男。組長は科学者が発明したという薬を飲む。すると組長の口から飛び出した魂が五郎の体を乗っ取り、五郎の魂は組長の体へと移ってしまう。
 五郎の体を乗っ取った組長は科学者を殺し、組長になってしまった五郎の命も狙うが、五郎は間一髪のところで助かる。
 かたぎの暮らしにあこがれていた組長はみどりのもとに向かい、五郎は自分の体を取り戻すべく、組長を追う。

発 表:1972(昭和47)年8月
初出誌:SFマガジン 1972年9月臨時増刊号
頁 数32ページ(初出時)、35ページ(修正後)
初出解説:“巨弾コミック特集1”

「ウルトラスーパーデラックスマン」 小学館 ゴールデンコミックス第3巻
「箱舟はいっぱい」  小学館叢書 異色短編集2
「気楽に殺ろうよ」  小学館文庫 藤子・F・不二雄[異色短編集]2
「カンビュセスの籤」 中央公論社 愛蔵版 SF全短篇 第1巻

 藤子Fの異色短編ではSFの要素は調味料的な役割であるものが多いが、この作品はエクトプラズムという超常現象を前面に押し出した、いかにもSFらしい作品といえる。しかし、その代わり(?)、どの作品よりもギャグタッチを濃くすることでバランスをとっているあたりが藤子Fらしい。
 この作品が発表された年の二年前、1970年にはアメリカで盛んになっていたウーマン・リブが日本で現れ始めた。ウーマン・リブとは女性自身による女性解放運動のことで、性別による差別の撤廃、女性が指導的地位につく可能性を増大すること、雇用の機会均等などを主張した。1972年には「妊娠中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する女性解放連合(略:中ピ連)」が発足、国連総会で'75年を国際婦人年とする決議が満場一致で決議されるなど、女性解放活動が目立った。ラストの警察官のセリフ「女上位か(初出時)」(修正後は「女上位もここまできたか。」)はそんな世相を反映しているのである。

【遊魂(トランス)状態】
 超常状態。通常の意識が失われた状態。催眠などによって引き起こされるものもいう。霊媒が憑霊状態を起こす際に、一時的にこの状態になることが多い。

【放出霊質(エクトプラズム)】
 交霊会などで霊媒の体からでて、霊の姿とされるものなどを形作ったりするといわれる謎の物質。心霊物質。フランスのノーベル賞生理学者シャルル・リシェー教授の造語。

 13ページ4コマ目のスクリーンに写っている映画の画面が描き換えられている。初出時は銃を持った男がもう一人の男を撃ち殺しているシーンで全く違う絵である。しかし、同じコマの五郎、みどり他観客は全く描き換えられていない。
 30ページ5コマ目が描き足し、8コマ目が描き換え、31ページ1、4コマ目が描き足し、2、5、6コマ目が描き換え、32ページ目1、5コマ目が描き足し、4コマ目が修正されている。
 ラストの五郎とみどりが再会して、体を取り替えようと塀から落ちるが体は元に戻らないといういきさつは単行本化の際に加えられたエピソードで、初出時は組長が死んだことで体は元に戻す手段がないことを自覚し、「それでもいいんじゃないかな」と続く。
 最後のコマは初出時はアングルがかなり異なっていて、警察官の言葉も「女上位か」と、シンプルなものだった。
 なお、「狂う」という言葉狩りが藤子作品では数多く見られるが、この作品は単行本によって様々に変えられてしまっている。5ページ目の9コマ目の魔土災炎のセリフ「学会からは…」の後に続く言葉は初出とゴールデンコミックでは「きちがい」、愛蔵版では「変わり者」、叢書では「くるっている」、文庫では「奇人」となっている。

 


 

メール ホーム